2015年09月26日

都戸利津『嘘解きレトリック(5)』

〈2015年漫画感想23冊目〉
都戸利津『嘘解きレトリック(5)』


 昭和初年を舞台とした路地裏探偵活劇の第5巻。今巻も日常の謎を追いながら,左右馬と鹿乃子,そして周囲の人たちの優しい生活が描かれます。今後に尾を引きそうな物語があったのも面白い。また,鹿乃子の母親の登場も大きかった。互いに優し過ぎて不器用なふたりが微笑ましいです。擦れ違いから生じた蟠りが解消されたのが嬉しい。素敵な女性でありますので,再登場も期待したいもの。また,相変わらず登場する食べ物が実に美味しそう。特に冒頭の茄子尽くし料理はたまらないものがありました。焼き茄子と油揚げの生姜丼が食べたいです。ミステリィとしては物足りない部分もありますが,物語は素敵なものばかり。嘘を聞き分けることが出来る鹿乃子の能力が上手く機能しています。或る種の心障でもあったその能力を上手に扱えるようになったことに安堵します。左右馬との出逢いは本当に僥倖というべきでありましょう。そういえば,馨の出番が全くなかったのは残念かなあ。

 収録されているのは全部で5話。但し,第二十二話と第二十三話,第二十四話と第二十五話は連続しているので,事実上はみっつの物語ということになります。どれも素敵な物語ばかりですが,やはり鹿乃子に母親が会いに来るお話が一等好き。最後の鹿乃子の満面の笑顔がたまりません。花が咲いたような,という比喩を使いたくなってしまうくらい。これで鹿乃子の心の片隅に残っていた淀みは解消されたということになるのでしょう。また,お食事亭くら田に姿を見せる怪しい客の正体を追う第二十一話は如何にも本作らしい事件に思えます。ミステリィとしては他愛もないのだけれど,この優しい視線がたまらなく好き。気遣い屋の紅子さんが可愛過ぎます。是非ともこのまま九十九町に居ついて,折に触れては顔を覗かせて欲しいものです。そして,第二十四話と第二十五話は駆け落ちした名家の娘の遺児に纏わる物語。今巻唯一の探偵ものといっていい感じがします。娘への母の想いが途切れていた縁を再び結び直すというのが素敵です。そして,注目したいのは鹿乃子の嘘を聞き分ける能力に気付いているかのように思える謎の青年の登場。決して単なる悪党には思えないのですが,遺児を騙っていたのは事実。とは言え,遺産が目的という風にも見えませんでした。また,真実の遺児が見つかった際に彼が発した言葉に嘘がなかったことは間違いありません。いずれにせよ,今後の再登場を楽しみにしたいと思います。物語には殆ど絡まなかったけれど,美禰子さんの可愛らしさも秀逸でした。迂闊なところも含めて大変好み。彼女の再登場もぜひお願いしたいものです。

 相変わらずの優しい雰囲気がたまらなく素敵な巻でありました。鹿乃子の蟠りに決着がついたのも良かった。これで鹿乃子篇は一応の終了ということで,今後は左右馬篇へと移行するようです。確かに左右馬はまだよく分からない部分が多いですからね。複雑な過去を背負っているようにも見受けられますけれども。左右馬が中心になるということで馨と雅の端崎姉弟の活躍も十分に有り得そう。特に左右馬が苦手とする雅は素敵な女性なので,その働きを楽しみにしたいと思います。いずれにせよ,鹿乃子篇が左右馬篇になったからといって,物語の雰囲気は変わらぬ筈。これまでどおりの優しい物語を期待します。
タグ:都戸利津
posted by 森山樹 at 07:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 漫画感想

2015年09月20日

椎名高志『絶対可憐チルドレン(43)』

〈2015年漫画感想22冊目〉
椎名高志『絶対可憐チルドレン(43)』


 松風もすっかり定着してきた『絶対可憐チルドレン』第43巻です。前巻に引き続く〈ロスト〉と〈姿なき侵入者〉の全篇,そして〈ステイ・ウィズ・ミー〉の序盤が収録されています。高校生篇になってから頓に学園生活が中心になっており,それ以外のキャラクターの出番が減っているのはちょっと残念。だからこそ,〈ステイ・ウィズ・ミー〉での宿木明,犬神初音,小鹿圭子の再登場は嬉しかった。尤も,小鹿主任は出番が少なそうではありますけれども。明も初音も成長が窺えるのは嬉しいです。チルドレン以外の部隊を指揮することになった松風は試金石となるお話となりそう。〈ロスト〉での活躍を受けて,バレットやティムとの関係も一応改善されました。暫くは松風中心で物語は進んでいきそうですね。未だに黒い幽霊との関連性への疑義が払拭されたわけではないのですけれども。このあたりはいずれ顕在化してくることでありましょう。いずれにしても高校生篇の最重要人物となることは間違いありません。

 〈ロスト〉では間接的にとは言えギリアムが登場。彼の言う第三世代の人工超能力者との戦いは更に苛烈になることでありましょう。松風の局部に深刻な打撃を与えたファスナー使いも結果的には黒い幽霊に回収されました。その意味では善戦はしたものの黒い幽霊の勝利だったということになります。今後も黒い幽霊の,ギリアムの悪意が世界を侵食することになるかと思います。ファスナー使いも強化されて再登場しそうな気もしますね。〈姿なき侵入者〉はその黒い幽霊から奪取した人造レアメタル結晶を巡る物語。兵部の過失で紛失したことに因る騒動が楽しい。パティやバレット,ティムら,かつて黒い幽霊の洗脳を受けていた者たちに影響が大きかったというのはやはり気がかり。未だに黒い幽霊の呪縛に捕らわれているということになります。尤も,パティが解放される契機となったのが腐女子としての妄想力というのは期待通りでありました。当番回がないことを嘆くカズラが可愛かったです。カズラは大好きなので当番回を設けて欲しいなあ。そして,生徒会副会長の金城さんの意外な働きが楽しかった。何気に出番が増えているのが嬉しい。また,ブルースター財団との絡みで悠理やナイの登場も僅かに有りました。いずれは再び主役の一角を担って欲しいものです。

 高校生篇になって更に面白さが増しています。松風の投入に最初はやや不安があったものの学園生活が舞台ということで上手く機能しています。皆本との棲み分けも素敵。バレットやティムだけではなく,カガリや東野あたりとのお話もいずれは期待出来るかな。一方でやはり学園生活が中心に据えられたことで割を食っている人物も多いです。特にナオミは中学生篇でも出番が少なかったですしね。ザ・ダブルフェイスのふたりも全く登場しないしなあ。寧ろ,P.A.N.D.R.A.の面々の方が出番が多いのは気のせいか。P.A.N.D.R.A.ではマッスル大鎌の出番を増やして欲しいけれどね。いずれにせよ,登場人物が増えたことでさまざまな人間関係が楽しめそう。黒い幽霊との決着とともに此方も期待していきたいと思います。
タグ:椎名高志
posted by 森山樹 at 07:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 漫画感想

2015年09月19日

冬目景『イエスタディをうたって(11)』

〈2015年漫画感想21冊目〉
冬目景『イエスタディをうたって(11)』


 11巻に渡って繰り広げられた三角関係に遂に終止符が打たれる時が来た『イエスタディをうたって』の最終巻です。此処に至るまでにいろいろなことがあったなあと万感胸に迫るものがありました。遠回りをし過ぎた感もありますが,だからこそ落ち着くところに落ち着いたとも言えるのでしょう。懐かしい人物の予期せぬ登場と意外な働きが嬉しい。木ノ下さんの後押しは結果として想定とは違う方向へと行ってしまったわけですが,硬直した現状を動かす要因となったのは事実。そして,湊は本当にまさかの再登場でありました。性格も若干変わったように思いますが,それだけの人生経験を積んだということなのでありましょう。彼の存在がこの結末を呼ぶことになったことを考えると大殊勲と言えます。雨宮側ではみもりが大きかった。一方で終盤は浪が殆ど物語に絡まなかったような気がします。莉緒との関係を終わらせた彼の物語はこれから再び始まるのかもしれません。何はともあれ,晴の想いが実ったことに祝福を捧げたくなる結末でありました。これが見たかったので満足です。

 三重県のとある駅で陸生と晴が再会から接吻をする場面がたまらなく素晴らしい。このふたりらしいと心の底から思います。最後の晴の涙が好き。一方で陸生と榀子との別れの場面も胸に来るものがあります。互いを大事に想いながらも,遂に結実することのなかったふたり。痛みも苦みもありましたが,友達としての関係は続いて欲しいものです。自分が愛する人と自分を愛する人,そのどちらを選ぶかというのは或る意味で究極の選択であると言えるでしょう。陸生や晴,榀子の出した答えが正解かは誰も分かりません。それでも,なお,この答えが最良であったと信じています。最終回では陸生も晴も姿を見せませんでしたが,皆の口からふたりが変わらずに仲が良い様子が窺えたことに満足。出来得るならば,結ばれた後のふたりの姿も拝見したかったところではありますが,余韻を残した結末と言えることも出来ます。杏子さんや楼子,莉緒,それに最終巻には登場しませんでしたが柚原チカら,物語を彩った女性陣の魅力は本当に素晴らしかった。特に煙草を吸う仕草に非常に心惹かれました。或る種の完成された美しさであったかと思います。紆余曲折はありましたが,一途に陸生を想い続けた晴の物語でありました。その切なさと美しさと楽しさが本作の魅力であったと思います。

 終わってしまったなあというのが一番の感想でありました。もっと,陸生と晴の物語を楽しみたかった。恋人として結ばれてからのふたりは,しかし,これまでとは然して変わらない筈。或いは変わらないでいて欲しい。もうふたりに逢えないことよりもふたりの物語に出逢えたことを心から感謝します。ずっと読み続けてきて本当に良かった。陸生を背中から抱きしめる晴の姿が愛おしくてたまりません。もうひとりの主人公である榀子にとっても決して悪くはない終わり方だったのではないでしょうか。彼女を愛する浪と結ばれることが示唆されているように感じました。榀子にも必ず幸せになって欲しいものです。『イエスタディをうたって』を彩った登場人物はみな優しさに満ちた魅力的な人ばかり。或る種のファンタジィとして憧憬を抱く物語でありました。変わり者たちの群像劇とも言えるけれどね。心の底から満足のいく物語を堪能することが出来ました。感謝します。
タグ:冬目景
posted by 森山樹 at 22:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 漫画感想

2015年09月14日

ヤスダスズヒト『夜桜四重奏(17)』

〈2015年漫画感想20冊目〉
ヤスダスズヒト『夜桜四重奏(17)』


 妖と人間が共存する桜新町を舞台とする異能アクション漫画の第16巻。今巻は元老院が物語の中心に位置しているのが面白い。敵とも味方とも付かぬ存在ではありますが,桜新町を護りたいという想いは秋名やヒメと同じ筈。独自の行動理論をもって策動する彼らの今後の動きは桜新町と七郷を巡る戦いに大きく影響を及ぼすことでありましょう。その元老院の中心に位置し,また比泉円神とも接触を持っていた盛岡枝垂の失踪が何を意味するのか楽しみ。その枝垂と貴船雲珠,そしてルーシーの若き日の姿が描かれたのは興味深い。七郷に対する為に元老院が開発した決戦兵器,零郷の人体実験における悲劇がその後の枝垂の行動を決定づけることになったのかもしれません。尤も,その被験者であるルーシーはその実験に参画したことに一片の後悔も無いようありますけれども。来たるべき神無月に向けて元老院は外界断絶し,終わりの始まりの時が到来したように思います。

 若き日のルーシーの魅力が素晴らしい。それだけに零郷の実験により,若さを奪われた姿が痛ましく思えますが,それを全く意に介さないルーシーが格好良かった。円神と結ぶことで暴走にも思える枝垂を止めることが出来るのは彼女だけなのでありましょう。そして,元老院側では椎名のり子の活躍も目立っていました。親友である撫子やじゅりとの別れがあっさりしていたのも彼女たちらしい。寧ろ,信頼関係の賜物であるように感じます。また,暫く前までは敵として対峙していた元老院のひとり,伊予紫がすっかり秋名やヒメたちに馴染んでいるのも楽しかったです。敵として登場した人物が心強い仲間となっていくのは嬉しいものです。ざくろや入鹿もいい味を出しているしね。外界断絶することで暫し出番はなくなりそうですが,再登場の際を待ちたいと思います。その紫を交えての男子会が存外に楽しかった。雄飛の言う桜新町で何百年も生きているが故の特権も羨ましい。誰一人欠けることなくこの戦いを生き延びて欲しいものであります。とは言え,あの巴ですら自分ひとりの胸にしまっておけなかった未来予測の存在が非常に気がかり。予断を許さない展開となりそうです。男子会と対になる形で開催された女子会も楽しかったのですが,この落差の激しさが怖い。幸せな終わり方を望んでいるのですけれども。

 約束の神無月まで残された時間は後2か月。終わりが始まり,物語は終局への道を歩み始めます。未だに見えてこない比泉円神や盛岡枝垂の真の目的が気になるところではありますが,それは意外に秋名やヒメと同じ方向を向いているのではないかという気もしています。いずれにせよ,みな多かれ少なかれ愛着のある人物ばかりなので,犠牲者が出ることは避けて欲しい。様々な伏線が此処に来て回収されているように思うので,最初から改めて読み直してみたいところではあります。このまま結末へ向けての疾走を大いに楽しみにしたいと思います。
posted by 森山樹 at 06:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 漫画感想

2015年09月11日

九井諒子『ダンジョン飯(2)』

〈2015年漫画感想19冊目〉
九井諒子『ダンジョン飯(2)』


 迷宮を舞台に魔物の生態と食への活用を描く『ダンジョン飯』の第2巻です。妹ファリンを救う為のライオスらの冒険は漸く迷宮の地下4階に到達。新たな場所で登場する新たな魔物たちの生態が実に楽しい。マルシルやチルチャックといった仲間たちの背景が少しずつ明かされていくのも興味深いです。そして,ライオスの異常性が更に高まっているように思えるのは気のせいか。基本的には人のいい戦士ではあるのですが,その魔物への執着は理解し難いものがあります。とは言え,ケルピーの際に見せた意外な慎重さは評価したいところ。マルシルは前巻で見せたポンコツぶりが影を潜めているのはちょっと残念。一方でチルチャックは貴重なつっこみ役としての地位を確立した気がします。このあたりの仲間内での立ち位置は明確になってきました。迷宮の住人としてのセンシもいい味を出しています。

 今巻で登場する魔物はゴーレム,オーク,宝虫,死霊,生ける絵画,ミミック,ケルピーなど。流石にその全てを食べるわけではありません。個人的にはゴーレムの生ける畑としての活用方が大変お気に入り。この種の発想が本作の真骨頂と言えるのでありましょう。迷宮の住人として,活用出来るものは何でも活用するセンシの生活にも逞しさを感じます。また,死霊退治で用いた聖水を使ってのアイスクリームは面白かった。センシが作る聖水の割合に適当な作り方かも含めて大好きです。ファリンに対するライオスの失言を受けてのマルシルとチルチャックの冷たい視線も楽しかった。地下4階は地下湖が舞台ということで水棲の魔物が多く登場しそうな気配です。その先鋒として登場のケルピーに対するライオスの危惧が真っ当なものだったことが意外でした。単に哺乳類系の魔物よりもそれ以外の魔物に対する執着心の方が強いだけかもしれませんけれども。未だに人食い植物の栽培に固執しているとは思いませんでした。そのケルピーは食用ではなく,馬油を利用しての石鹸作りというのが楽しい。此処に至って初めてマルシルが積極的に魔物を活用するという意味でも興味深いお話でした。この世界での魔法の在り方の一端が示されるというのも面白かった。

 相変わらず,自由な発想による魔物の生態が楽しいです。迷宮自体の謎は未だに見えて来ませんが,「宮廷料理」で扱われた絵画はこの迷宮の成り立ちと深く関わってきそうな気がします。特に全ての絵に登場するダークエルフの存在が気になるところ。そもそもの今回の冒険の発端であるファリンを食べたドラゴンは地下5階に居た筈なので,最早そのひとつ上の階に至ったということになります。ファリンを救うこと自体はそれ程遠い未来ではなさそうかな。ファリンを救った後は狂乱の魔術師によって作り上げられたこの迷宮の謎を解き明かす為に更なる冒険を続けて欲しいと思います。ファリンは僧侶ということで,貴重な回復役として,継戦能力も向上しますしね。いずれにせよ,大好きな作品ですので,末永く続いて欲しいものです。魔物好きとしてはたまらないものがあります。
posted by 森山樹 at 06:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 漫画感想