2015年10月22日

久正人『ジャバウォッキー1914(1)』

〈2015年漫画感想28冊目〉
久正人『ジャバウォッキー1914(1)』


 第一次世界大戦の時期を舞台に恐竜と人間との戦いを描く『ジャバウォッキー1914』の第1巻です。あの『ジャバウォッキー』がまさかの復活を遂げたというのが素直に嬉しい。齢を重ねてもリリー・アプリコットの魅力は健在。但し,現段階ではサバタは確認されていません。かつて,彼らが所属していたイフの城も現状では不明。リリーの言からは何らかの形で瓦解したことが推測されます。前作から20余年の間に起きた出来事が早く明かされて欲しいものです。というわけで,今作の主人公はリリーの子供とされるサモエドとシェルティの兄妹。兄のサモエドはオヴィラプトルであり,妹のシェルティは人間ということで,血の繋がりがあるのかどうかは確認されていません。“鉄馬の竜騎兵”を名乗るこのふたりと指揮官としてのリリーの活躍が物語の中心となりそうです。そして,勿論,『ジャバウォッキー』の最大の魅力であった奇想の世界史も健在であります。特に“@”に係る解釈が素晴らしい。リリー率いるアプリコット商会と対峙する殻の中の騎士団は前作に登場した有翼の蛇教団との関わりがあるのかも楽しみです。

 今巻では「#1フランス共和国ソンム1916年9月」と「#2中華民國青島1916年10月」の途中までが収録。題名が“1914”とされながら,舞台は1916年となっているあたりは秘密が隠されていそう。また,「#2中華民國青島1916年10月」にはあの嘉納治五郎が登場します。『ジャバウォッキー』にも見られた実在する人物或いは出来事との繋がりは本作でも楽しめそうです。何よりも,かつて,血まみれのリリーを救った人物ということで,空白の20年間を埋める意味でも重要な存在となりそう。この時にリリーが持っていた卵から孵化したのがサモエドということが示唆されていますので,様々な事情が想像されます。尤も,「#2中華民國青島1916年10月」はまだ途中ということで現在は音響兵器を駆使する敵と交戦中。人間に対して恐竜への恐れを増幅させる音を発動させて同士討ちを画策する難敵に如何に対抗するかが楽しみです。「#1フランス共和国ソンム1916年9月」は歴史上初めて戦線に投入された戦車が大きな役割を果たします。バイクへの二人乗りで敵を翻弄するサモエドとシェルティが魅力的。サモエドはサバタを踏襲する銃使いであり,シェルティは此処までのところを見る限りでは乗り物の操縦に天賦の才を有する少女ということみたいですね。種族は違っても兄妹仲は大変良いのが微笑ましい。完全にシェルティが主導権を握っているように思いますけれども。敵の攻撃で擦り剥いたシェルティを見て逆上するサモエドが印象的でした。シェルティは容姿も言動も大変に好みであります。

 『ジャバウォッキー』から踏襲される外連味のある物語が大変に魅力的。相変わらずの世界史との関わりも好みであります。勿論,前作同様に文学作品との繋がりも期待したいもの。現段階ではサバタの消息やイフの城の処遇,或いは有翼の蛇教団の現状など謎ばかりですが,徐々に明かされることを楽しみにしています。また,如何なる恐竜が登場するのかも本作のひとつでありましょう。現時点ではアンキロサウルスとスティラコサウルスと思われる恐竜が確認されています。人間と恐竜の共存と対立を巡る奇想の物語が如何なる展開を見せるのか,続巻を心待ちにしています。
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2015年10月12日

久正人『ノブナガン(6)』

〈2015年漫画感想27冊目〉
久正人『ノブナガン(6)』


 進化侵略体と戦うE遺伝子保持者の活躍を描いた『ノブナガン』の最終巻。絶望から希望への転換が素晴らしい。浅尾さんが此処まで重要な存在になるとは思ってもいませんでした。これは初登場時からの構想だったのかなあ。本当に素晴らしい。しおと浅尾さんの本当の出逢いから再会までの一連の流れは完璧だと感じます。また,切り裂きジャックことアダムとしおとの関係も見どころのひとつでありましょう。しおとアダム,そして浅尾さんが記念写真を撮る一連の場面が最高に素敵。この間に一切の台詞がないのが非常に効果的だと思います。それ故に最後の浅尾さんの写真があまりにも印象的であるのですけれども。浅尾さんに化粧を施すニュートンも素敵でありました。そして,浅尾さん救出の立役者のひとりであるガリレオ・ガリレイことバレンチナ・カッサーラの存在感も素晴らしかった。最終話ではまさかの場面が見られたのが嬉しいです。しかも,お相手が意外過ぎるのも良かった。他にもヴィドックの立ち位置も良かったです。ジョン・ハンターはちょっと哀れだけれど,まあ仕方ないよね。

 明かされた進化侵略体の予想を超えた正体が素晴らしい。そして,その身を徹して立ち向かったしおを始めとするE遺伝子保持者たちも。ノブナガンに加えて,もうひとつのE遺伝子をその身に宿すというしおの選択肢もたまらないものがありました。この最終盤の展開は完全に予想出来ずに意外性が大変楽しかった。しおの考えた作戦が途方もないながらも説得力があるのが素敵です。それはもうひとつのE遺伝子の特性と完全に適合しているからでもありましょう。このあたりの展開はまさに神懸っておりました。個人的にはそのE遺伝子を完成させた後の土偶と壱与の会話が非常に好み。最終話で海辺に佇むふたりの姿も印象的でありました。約2000年も戦い続けてきたふたりの星を超えた絆がたまりません。その壱与から指令の座を受け継いだヴィドックもいい味を出していました。彼の自嘲は,しかし,人類を救えたが故のもの。しおに対して本気で激怒する彼の激情も心地良かったです。後はやっぱり一般人代表としてのデリン・タナカかなあ。浅尾さんを救出した立役者のひとりであり,男としての格好良さも見せつけてくれました。あれは惚れちゃうよね。そして,最終巻に至って活躍を見せたウィリアム・テルやメフメトII世,ポルシェ,ノストラダムスも嬉しい。特にウィリアム・テルとノストラダムスの戦友としての会話が良かったです。ウィリアム・テルはロバート・キャパとの会話も好きだったけれど。極僅かな登場に留まった脇役全てが個性豊かだったのが素晴らしいです。

 終わってしまったなあというのが正直なところ。もう少し読みたかった気もしますが,此処まで綺麗に纏めてくれると満足する他ありません。しおと浅尾さんの絆の美しさが本当に素晴らしかった。外連味に溢れる描写と奇想の設定が作者の特徴ではありますが,その本質は稀代の語り手ともいうべき物語の展開にあると思うのですよね。その作者の能力が如何なく発揮された最終巻でありました。最終話がほぼ後日談というのも個人的には大変好み。本当に心から満足出来るあまりにも美しい物語でありました。敢えて言うならば,ロバート・キャパとウィリアム・テルの会話に登場したコロンブスの逸話が読みたかったけれどね。
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2015年10月10日

高尾じんぐ『くーねるまるた(7)』

〈2015年漫画感想26冊目〉
高尾じんぐ『くーねるまるた(7)』


 東京在住ポルトガル女子マルタの楽しい日常を描く『くーねるまるた』の第7巻です。相変わらずの素敵な日常が実に羨ましい。こういう生活を送ることが出来れば幸せだろうなと思ってしまいます。とは言え,それはマルタの明るさに因るところが大きいのも事実。彼女の存在が周囲の人に笑顔と優しさを齎しているのだろうと感じます。何よりも物語の中で取り上げられる様々な食べ物が実に美味しそう。派手さはありませんが,創意工夫でどんなものでも美味しく作り上げてしまうマルタが素晴らしい。その性格とも相まって,まさに理想の女性ということも言えるでしょう。勿論,それは理想化された姿であるのは事実でありますが,等身大の女性として現実感があります。何時か,何処かで,このような女性と巡り合いたいものであります。因みに今巻では表紙で白無垢姿を披露しています。その姿が実に美しい。カラー扉の振袖姿もたまらなかったけれどね。マルタは着物が大変よく似合いますので,今後も是非披露して欲しいと思います。

 相変わらず,どのお話も素敵なものばかり。特に今巻は神永さんが中心となるお話が多くて嬉しかった。酒癖が悪くて,そそっかしい,けれども頼りになるお姉さんといった立ち位置の神永さんはマルタを除けば一番お気に入りの人物です。今巻では珍しくドレス姿も披露してくれます。思えば本来の職業は女医さんなんですよね。更にはアラビア風の露出の多い衣装も見せるなど,様々に楽しませてくれました。彼女の姪が登場する「叔母さんのアイス」は今巻で一番好きなお話かもしれません。小夜ちゃんにはいずれ再登場して欲しいものであります。また,大好きな山村暮鳥の詩『風景』を題材とした「いちめんの」も大好きなお話です。一面の菜の花を観ながら食べる菜の花のピクルス入り卵サンドイッチは美味しいことでありましょう。マルタのこの日本文学に対する素養の深さも魅力のひとつ。本来の専攻分野は都市計画学だったのですが,いつどこでこの日本文学に対する興味を得たのか気になります。恐らくまだその契機は描かれていない筈なので,いつかは知りたいものであります。なお,今巻は初めての企画として描き下ろし短篇「わたしのおとなりさん」が収録されています。これはマルタの隣人である美緒子を主人公とした掌篇。美緒子の可愛らしさがたまりません。そして隣人から見るマルタが振りまく幸せが印象的でありました。この企画は是非継続して欲しいもの。神永さんや由利絵から見たマルタの姿も描いて欲しいものであります。

 季節を感じさせる物語が多めの巻でありました。相変わらず,笑顔に溢れるお話ばかりで幸せを感じます。宮野さんや小夜ちゃんといった新たな登場人物もまたいつか姿を見せてくれることでありましょう。マルタの人間関係が広がっていくのも楽しいです。あの交流力が大変羨ましくてなりません。そして,今巻の最後でマルタは盛岡旅行へと旅立ちました。東京を離れての物語はこれが初めて。というか,マルタが日本に来て初めてのひとり旅というのは結構意外でした。何はともあれ,旅先でのマルタの行動が楽しみでなりません。盛岡は美味しいものも文学も満載の土地ですからね。期待したいと思います。
タグ:高尾じんぐ
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2015年10月07日

ゆでたまご『キン肉マン(52)』

〈2015年漫画感想25冊目〉
ゆでたまご『キン肉マン(52)』


 許されざる世界樹を舞台に完璧超人始祖と正義超人,悪魔超人との戦いが描かれる『キン肉マン』の第52巻です。今巻の中心となっているのはバッファローマンとガンマンの激戦ですが,ともに圧倒的な膂力の持ち主故に迫力のある死闘が楽しめます。悪魔将軍が此処までも高くバッファローマンのことを買っていたというのは意外でありました。確かに魅力的な超人ではあるのですが,或る意味では悪魔将軍の後継に指名されたようなものですからね。尤も,現時点で悪魔超人側の戦力と言えるのはバッファローマンを除けば,最早サンシャインしか残っていないのですけれども。完璧無量大数軍のダルメシマンとジャック・チーのふたりを倒す大金星を挙げたブラックホールの再投入は流石に無いでしょうからね。ペンタゴン変身も含めて,もう一度その戦いを観たい超人ではあるのですけれども。盟友アシュラマンの死を受けてのサンシャインの今後の戦いも気になるところ。悪魔超人側の物語からも目が離せません。

 悪魔将軍の言を受けて覚醒したバッファローマンはガンマンを圧倒しました。とは言え,ガンマンも完璧超人始祖の名に恥じない強さを見せてくれたのが嬉しい。ストロング・ザ・武道こと超人閻魔に対する忠誠心も素敵でありました。彼の唯一の嘘が何であったのかは最早知る由もありませんが,恐らくはその真眼で超人閻魔の真実を覗いていたのではないかと推察されます。このあたりはいずれ明かされて欲しいもの。そして,この対決に続いてのラーメンマンとネメシスの戦いも注目したいものです。あのロビンマスクを沈めたネメシスは恐らくはラーメンマンも倒すことになる筈。その出自がキン肉王家にあることは予想の範疇にありましたが,キン肉マンの大叔父にあたる存在であることが明言されました。あまりの才能故に幽閉を余儀なくされた若き日のネメシスが如何に完璧超人の陣営に加わることになったのか楽しみです。最終的にはキン肉マンと戦うことになるのは当然でありましょう。或いはその際にはキン肉マン&悪魔将軍VS超人閻魔&ネメシスという布陣になるのかもしれませんけれども。尤も,その前にブロッケンJr.VSサイコマンとテリーマンVSジャスティスマンの戦いも残されています。どちらも完璧超人始祖が勝利する気はしますね。ジャスティスマンはやや迷いを感じるので負ける可能性も感じますけれども。流石にブロッケンJr.が勝利するのは厳しいのではないかなあ。

 様々な因縁が絡み合い,戦いだけでなく物語として非常に楽しいです。此処まで明確に超人史が描かれることになるとは思ってもいませんでした。現在のところ,各陣営の首領は戦況を見守っている状態ですが,早く彼らも戦いに参戦して欲しいものであります。また,キン肉大神殿に封じられているシルバーマンの動向も鍵を握りそう。シルバーマンはキン肉王家の開祖ということが明らかになったことで,キン肉マンと悪魔将軍も遠い血縁関係にあることが判明しました。このあたりは今後に影響を及ぼすことになるのかな。いずれにせよ,正義超人と悪魔超人,完璧超人の三つ巴の戦いの果てに何が待ち受けているのか楽しみでなりません。
タグ:ゆでたまご
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2015年09月30日

羽海野チカ『3月のライオン(11)』

〈2015年漫画感想24冊目〉
羽海野チカ『3月のライオン(11)』


 19歳の天才プロ棋士を主人公とした将棋を媒介とした青春漫画の第11巻。前巻から引き続く川本家の騒動が描かれます。あかりやひなたらの心を深く傷付けながらも一応は終結したということでいいのかしら。あかりたちの父が見せる清々しいまでの屑ぶりが吐き気を催す程でありました。此処まで憤りを感じる登場人物というのもそうはいない気がします。毅然とした対応,或いは単純に空気を読めないだけかもしれませんが,いずれにせよ零の存在が大きかったのは事実。また,あかりたちのおばさんの素敵なおばさんぶりが大変素敵でありました。空回りしている感もありますが,林田先生もいい味を出しています。大人たちがきちんとした大人の務めを果たすことであかりたちの父の屑ぶりが余計に際立ってしまうのも事実ではありますけれども。但し,彼の場当たり的で,しかし打算的な考え方は誰もが有しているもの。或る意味では彼に対する嫌悪感は同族に対する生理的なものに由来するのかもしれません。とは言え,あかりたちに告げた最後の残酷な一言は許し難いです。

 将棋の方では藤本雷堂棋竜との対局が面白かった。彼の放言は割と好きです。実力に裏付けられるが故の放言ですしね。但し,零は殆ど相手にしていないので,一方的に藤本棋竜が喋り倒すだけになってしまっていましたけれども。零を弄るのに夢中になって,龍馬を奪われる迂闊なところも楽しい。これで宗谷名人や柳原棋匠らと並ぶ実力者というのですから,たまりません。今後も折に触れて零の前に立ちはだかる厚い壁となってくるのでしょう。今巻ではあかりたちの父との対決が中心だったということもあって,将棋の対局は少なめ。個人的にはやはり将棋をもうちょっと多めに扱って欲しいものであります。本篇で二海堂の出番が全くなかったのも寂しいですしね。島田八段も扱い悪かったしなあ。まあ,川本家の騒動が一段落したことで,次巻は将棋の描写が多めになることでありましょう。零によるあかりさんの婿探しが本格化する予感もありますけれども。なお,今巻に収録の「ファイター」は零が幼少期から現在に至る迄を振り返る番外篇。彼にとって如何に将棋というものが大きな存在であったのかということがよく分かります。彼にとって将棋は人間関係とほぼ同意であるのですよね。孤独だった彼が将棋を通じて同じ方向を旅する仲間を得られたというのが本当に嬉しい。そして,恐らくは川本家の人たちは将棋を通じずに初めて触れ合えた人たちなのでありましょう。零が彼女たちを大切にするというのはよく分かります。

 相変わらず,心に静かに染入る物語でありました。特に今巻は本来自分の好みの範疇から外れるお話だったにも関わらず,きちんと読ませるのが素晴らしい。ただ,やはり個人的には将棋の対局を通じての相手との心の触れあいこそを望んでいます。というよりも,対局する棋士たちの内面に触れる描写が好きなのですよね。以前の柳原棋匠や土橋九段,或いは滑川七段などの物語が特に好き。零を永遠の好敵手と定める二海堂とのタイトル戦での対局もいつかは見たいもの。そして,再びの宗谷名人との戦いも。今後は将棋の対局を中心に描く方向に回帰して欲しいなあと思います。川本家との心の交流もそれはそれで楽しいのですけれどね。
タグ:羽海野チカ
posted by 森山樹 at 06:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 漫画感想