2015年11月14日

神崎裕也『ウロボロス(21)』

〈2015年漫画感想33冊目〉
神崎裕也『ウロボロス(21)』


 大切な人を奪われた復讐に身を投じるふたりの龍の姿を描く『ウロボロス』の第21巻。龍崎イクオと段野竜哉の戦いも終局に近付いていますが,此処に来て続く怒濤の展開が凄まじい。復讐の対象である金時計の男の正体は北川貴一郎警視総監というのは既に明らかになっていますが,彼がイクオの実の父親であったというのも予想は出来ていたとは言え,やはり衝撃的であります。そして,舞台は北川警視総監が始球式を務める野球場へ。此処での対峙は緊張感がありますが,更に公安の策略により事態は混迷の一途を辿っています。物語が終焉へと突き進む中で球場に急ぐ日比野美月が坊屋元警視総監から預かった資料が何を意味するのかが今後の最大の焦点と言えるでしょう。北川警視総監が「まほろば」を作った事情も全てが明かされているわけではなく,また愛人であった結子先生を謀殺するに至った経緯も謎のまま。イクオと竜哉の運命と同時にこのあたりの事件の真相全てが明かされることに期待します。

 復讐を誓った相手が実の父親であると知ったイクオの動揺は想像に余りあります。このあたりの事情は小夏から情報を得た那智の追跡からも明らかになりつつありますが,現段階ではそれ程北川警視総監が大物の悪には思えないというのが難点。寧ろ,小物に感じてしまう部分もあります。更なる裏があってもおかしくはないのかなという印象です。新たに登場した警察庁の阿南警視監の不穏な存在感も気になります。まるで竜哉による北川警視総監襲撃を予測していたかのような掌握振りが素敵。恐らくは事前に状況を把握していたのでしょうけれども。となると,舞台は警視庁から更に警察庁まで広がる可能性があります。その場合には橘さんの回想に登場した美樹本警察庁長官が何らかの立ち位置を占めることなりそうです。また,阿南警視監の傍には蝶野警部の双子の弟が控えているというのも面白い。この場合は蝶野警部の立ち位置が存在感を増しそうです。それも踏まえての巻末のSIDE STORYだったのかなという気もしますが,それは流石に先走り過ぎな気がしないでもありません。球場で対峙するイクオと竜哉,北川警視総監,蝶野警部,公安の赤鼻。球場に急ぐ美月。警視庁内で指揮を執る阿南警視監。事態を見守る三島さんと阪東さん,橘さんに桐乃の姐さん。千葉で調査を続ける那智。関係者が散らばっているだけに,まだ一波乱ありそうな気がします。

 物語が最終局面にあることは間違っていないのですが,状況が二転三転する余地があることも考えられるのは興味深い。状況からしてもこのまますんなりと終わるとは思えないのですよね。鍵を握るのは坊屋元警視総監から美月に渡された資料でありましょうか。此処に来て登場した警察庁陣営も不穏な雰囲気を漂わせます。個人的にはやはり最後は此処までの物語に関わってきた全ての人物に登場して欲しいところであります。特に山城組の隼人あたりにはね。実父である北川警視総監に拳銃を突きつけたイクオの決断も気になるところ。是非とも結末まで全力で疾走することを期待します。
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2015年11月07日

空知英秋『銀魂(61)』

〈2015年漫画感想32冊目〉
空知英秋『銀魂(61)』


 将軍暗殺篇から続く路線が継承される『銀魂』の第61巻です。表紙を飾る真選組の三人からも分かるように,真選組が中心の巻となっていますが,天照院奈落を統べる虚の正体が吉田松陽と判明するなど相変わらずの激闘が続きます。更には見廻組の佐々木異三郎と今井信女を巡る物語にも決着がつくなど内容は盛り沢山。その分,諧謔性はほぼ皆無であり,その類の趣向を『銀魂』に求めると辛いかもしれません。物語の性質上仕方がないのですが,柳生九兵衛や月詠らの出番も将軍暗殺篇に引き続き全くなし。その分,真選組や桂小太郎,松平片栗虎,見廻組の活躍が十分に堪能出来るわけですけれども。とは言え,本来の目的であった近藤勲と松平片栗虎を奪還することには成功したものの,失ってしまったものもあまりに大きかった。また,事実上の反逆者となってしまったことで真選組そのものも追われる身となり,江戸から離れることを余儀なくされてしまいます。或る意味で真選組の終焉が描かれる巻であり,また真選組の新たな旅立ちが描かれる巻とも言えるでしょう。

 読みどころは多いのですが,個人的にはやはり佐々木異三郎の退場が一番大きかった。最後の最後まで自分の真の目的を明確には明かさず,その目的を完璧に達成する彼はまさに傑物というべきでありましょう。今井信女との愛執が入り混じった関係も良かった。以前に彼が真選組のファンだと述べたことは結果的には真実でありました。天導衆から信女と鉄之助を護って散った彼の最期は夜明けを見ることなく暗闇に消えるというもの。明確な死が描かれていないので再登場の期待も残されていますが,どうなることか。個人的にはその生に見合った死にも思えるのではありますけれども。勿論,再登場するならば,それはそれで嬉しいです。そして,無事に近藤勲を奪還した後に江戸を去る真選組と万事屋それぞれの別れも大変良かった。土方と銀時の酒場での語らいも沖田と神楽の果し合いも素敵だったのですが,一番は近藤とお妙でありましょう。悪質ストーカーと罵倒され続けながらも愚直に一途にお妙を追い続けた近藤の想いが伝わったと信じたいところ。尤も,ふたりの関係の変化は以前から少しずつ描かれてはいたのですけれどね。このシリーズでは近藤の株が一気に上がった気がします。以前から格好良いところは格好良く決める好漢であったことに変わりはないのですけれども。だからこそ,佐々木異三郎ともっと語らう姿が見たかったです。佐々木異三郎と因縁のあった銀時や土方との関わりが薄かったのは仕方がないのかな。最後に全員で敬礼する場面は泣けました。それを陰から見る銀時たちの姿も。

 真選組は江戸から去ることで物語からは一端退場。幕府に,というよりも天導衆に対抗する力を携えて戻ってくる日を楽しみにします。そして,明らかになった真の黒幕こと虚との戦いが今後の焦点となってくるのでありましょう。吉田松陽との関係が気になるところではありますが,いずれにせよ銀時,桂,高杉らとの因縁が中心となることかと思います。そして,その鍵を握っているのは,かつて天導衆に属し,且つ吉田松陽の弟子も言える今井信女ということになるのかな。全く先の展開が予想出来なくなってきた『銀魂』の行く末が楽しみであります。個人的にはもう少し諧謔性が欲しいけれど,この展開が続く限りはちょっと厳しいなあ。
タグ:空知英秋
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2015年11月03日

高尾じんぐ『くーねるまるた(8)』

〈2015年漫画感想31冊目〉
高尾じんぐ『くーねるまるた(8)』


 ポルトガルから来た食いしん坊娘のマルタの日常生活が描かれる『くーねるまるた』の第8巻。今巻では初めてとなる旅行篇が収録されています。その目的地は盛岡。日本文学に明るいマルタにとって盛岡は石川啄木や宮沢賢治の縁の地ということで魅力的な場所だったのではないでしょうか。どんな場所にいっても明るく元気で楽しいマルタの姿が羨ましいです。また,個人的にはマルタを思い遣る神永さんの物語が描かれたのが嬉しかった。酒乱気味で面倒くさい部分もあるけれども,やっぱりマルタにとっては日本での姉的な存在なのだなあと実感します。美緒子や由利絵とはまた違った立ち位置にある女性ですね。今巻では医師としての姿を垣間見ることが出来たのも良かった。いつかは目指す美術への道が叶って欲しいものであります。彼女を含めたマルタの周囲の人間たちが相変わらず魅力的でありました。こんな楽しい生活を送ってみたいと思わざるを得ません。その為にはマルタの如く前向きで明るい笑顔を絶やしてはならないのでしょうけれども。その時点で無理だなあと溜息を吐いてしまいます。

 今巻は前半部分が盛岡旅行,後半部分がいつも通りの日常となっています。盛岡は自分も未体験の場所なので何もかもが目新しく楽しそうでした。じゃじゃ麺とジャージャー麺が違う食べ物というのも初めて知りました。ちいたんたんという食べ方も心惹かれます。そして何よりもマルタが泊まった熊ケ井旅館の家庭的な雰囲気が実に素晴らしい。尤も,自分は馴染むことが出来ないかもしれませんけれども。今巻では旅行前夜と後日談が描き下ろしとして収録されているのも嬉しいです。旅行絡みで一番好きなお話は神永さんの思いやりが胸に迫る「帰京」ですけれどね。改めて,神永さんに惚れ直しました。後半の日常生活はいつも通りに楽しくて美味しそうな食べ物が満載です。「ゴーヤ」で描かれたポルトガルの冷製スープのガスパショが特に美味しそう。酸味と苦みが夏の暑さには最適に思えます。尤も,生のトマトを使用している時点で自分には食べられないのですけれども。「夏の自由研究」で微かに触れられた『鉄腕アトム』好きのマルタの妹の登場にも期待をしたいもの。お姉さんのエリザも魅力的だっただけに,いつか来日してくれることを楽しみにしています。姉としてのマルタの姿も見たいですね。「洞窟」でマルタが作ったポルトガルのサンドイッチ,ビファーナも美味しそうでした。ポルトガル料理を食べに行きたくなってしまいます。

 相変わらずの楽しい日常が素直に羨ましい。自分にとっての理想化された生活が此処にあります。初めての試みであった盛岡への旅行も素直に楽しかった。こういった形で旅行先の人々との触れ合いをもっと観たいなあと思います。勿論,その地独特の珍しく美味しい食べ物との出逢いも是非描いて欲しいもの。勿論,マルタの日常生活自体も本当に楽しめているのですけれどね。少しの工夫で美味しいものは幾らでも作られるということを実感します。今巻で一番食べたかったのはジンジャー鯖寿司かなあ。相変わらず,マルタに理想のお嫁さん像を観た巻でありました。次巻の刊行も心待ちにしています。
タグ:高尾じんぐ
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2015年10月29日

菅野マナミ『ひまわりさん(6)』

〈2015年漫画感想30冊目〉
菅野マナミ『ひまわりさん(6)』


 古書店ひまわり書房に集まる少女たちの姿を描いたゆるふわ青春漫画の第6集。今巻も相変わらず,素敵な物語が満載で嬉しいです。久しぶりにさくらとりんが登場しましたし,学生時代のお兄さんと先代ひまわりさん,それに夕さんの姿を堪能出来たのも楽しい。惜しむらくは都さんの出番が全くなかったことかなあ。まつりや奈々子,立花,亜美に風子を加えた女子高生勢がそれぞれに魅力を炸裂させる物語が多かったように思います。それを見守るひまわりさんとあやめさんの姿がまたいいのですけれども。意外に表情豊かなひまわりさんを見ているだけでも楽しくなってしまう巻でありました。特に風邪とプリンの物語で見せるひまわりさんの満面の笑顔は本当に素晴らしい。幸せになります。あと,お兄さんと先代ひまわりさんの会話を観てちょっぴり妬みを見せる夕さんが意外。先代ひまわりさんの小悪魔ぶりが最高です。回想でしか登場出来ないので仕方がないのですが,もっと出番が欲しいところです。夕さんとの学生時代をもっと見たいなあ。

 今巻で一番お気に入りは第43話で描かれる風邪ひきひまわりさんのお話。前話で雨の中で燥ぐまつりと奈々子を受けて,何故か風邪をひいてしまうひまわりさんが可愛い。熱で朦朧としていて口調が定まらないのも妙に素敵に思えます。あの口調はやはり意識的なものだったのかと実感しました。そして,お母さんとプリンの想い出も素敵。先代ひまわりさんに何処となくお母さんを重ねていたことに気付くあたりは切なさも感じてしまいます。勿論,風邪ひきひまわりさんを心配して一日中抜け殻みたくなっていたまつりも可愛いです。いい子過ぎるなあ。そのまつりと奈々子,亜美,立花の友情が本当に美しい。彼女たちの学園祭が描かれる第47話から第49話の一連のお話も大好き。亜美を優しく窘めるひまわりさんと呼びに来る奈々子が印象的でありました。亜美の落ち込む,というか自己嫌悪というのもちょっと珍しい気がします。直ぐに立ち直るのが彼女らしいですけれどね。一方で学園祭の華であるファッションショーにかける立花のお話も大変宜しい。まつりに感化されてファッションショーに出展する衣装の製作に取り組む彼女の姿がたまりません。モデルを頼んだ子が急遽出られなくなった為に代役となるのが風子というのも素敵。風子の華やかな衣装は大変に眼福でありました。学園祭の最後にまつりたち5人娘が全員で浴衣姿を披露してくれたのも嬉しい。まつりを見守るひまわりさんの保護者目線はあやめさんでなくても頬が綻ぶというものでありましょう。

 相変わらず,ひまわり書房を中心とした登場人物たちの穏やかな日常がたまらなく魅力的であります。特に亜美や立花,奈々子たちの出番が多かったのは本当に嬉しかった。ひまわりさんやまつりは勿論なのですが,それ以外もみんな素敵な娘さんたちなのですよね。物語としてはそれ程劇的な展開が用意されているわけではありませんが,多感な年代の少女たちの揺れ動く想いが繊細に描かれている印象があります。それを見守る大人としてのひまわりさんやあやめさんといった図式が大変に好み。是非とも,このまま末永く続いて欲しいものであります。
タグ:菅野マナミ
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2015年10月26日

久織ちまき『聖闘士星矢セインティア翔(6)』

〈2015年漫画感想29冊目〉
久織ちまき『聖闘士星矢セインティア翔(6)』


 女神アテナを護る為に戦う聖闘少女たちの過酷な戦いを描く『聖闘士星矢セインティア翔』の第6巻です。舞台としては原作での黄金十二宮篇が終わった直後。このあたりの原作と同時に物語が進むことで様々な絡みが堪能出来るのは本作ならではの楽しみ方と言えるでしょう。特に十二宮の戦いの後に生き残った黄金聖闘士たちの新たな戦いを楽しめるのは素直に嬉しい。また,蛇遣い座のシャイナや一角獣座の邪武など原作ではやや活躍の場に恵まれなかった聖闘士にもきちんと見せ場が用意されています。勿論,本作における主人公である聖闘少女たちも新たな敵との苛烈な戦いの中で成長していく姿が描かれます。特に冠座のカティアの再登場は嬉しかった。心ならずも女神アテナを裏切った過去を贖罪する為に戦うカティアが死に急いでいるように思えるのは気のせいかなあ。聖闘少女の中では一番の実力者であり,その美貌も際立っているだけに何とか生を全うして欲しいものであります。彼女自身はそれを望んではいないようにも思えるのですけれども。

 新たなる敵は復活した争いの女神エリス。但し,今回のエリスは翔子を護りたいという響子の想いを歪曲した形で取り込み一体化した姿となっています。即ち,響子はエリスの憑代ではなく,響子とエリスが融合して新たな神格になったというほうが正確なのでありましょう。全ての戦いを愛し肯定する争いの女神としてエリスはアテナとほぼ同格の立場になりました。そして,エリスと融合した響子の許にはオリオン座のリゲルの姿もあります。彼の立ち位置も気になるところ。響子ならばともかく,少なくともエリスには全幅の忠誠を捧げていないように思えます。蠍座のミロとの因縁が如何に描かれるのかも楽しみです。一方でエリスと共に彼女に従う悪意の邪霊士エモニも復活を果たしました。以前よりも成長した姿でイルカ座の美衣を苦しめますが,その悪辣な戦い方は相変わらず非道で素敵。精神攻撃により肉体に損傷を与える彼女の特性はまさに悪意に相応しいものでありましょう。しかし,冠座のカティアによる救援があったとはいえ,最終的にエモニを滅ぼす美衣に聖闘少女としての成長を感じました。アテナというよりも沙織に対する盲目的な忠誠心はやや危うくもあるのですけれども。エモニが消滅の間際に見せた過去も気になりますが,語られる術は最早ないかなあ。そして,獅子座のアイオリアは蘇った双子座のサガの悪の人格と対峙中。原作では見られなかった対決だけにその行く末が大変楽しみであります。なお,アルデバランやシャカにも見せ場は用意されていますが,黄金聖闘士の出番が多いと聖闘少女たちが霞んでしまうのは難点ですね。活躍するのは嬉しいのですが,適度のところで程程にして欲しいものであります。

 原作の裏面で展開されていた戦いという設定が素直に楽しい。序盤は劇場版『聖闘士星矢 邪神エリス』の設定を再構築していたのに対し,争いの女神エリスの二度目の復活以降は独自性のある物語に移行しているのが興味深いです。とは言え,やはり黄金聖闘士が目立ち始めている分,聖闘少女たちの影が薄くなっているのは否めないところ。カティアと美衣はともかく,小熊座のシャオリンに至ってはまるで出番がありませんでしたし,翔子も結局は響子と対峙をしただけで終わってしまいました。争いの女神エリスとの戦いはやはり聖闘少女たちによるものであって欲しいです。悪の人格のサガやオリオン座のリゲルは黄金聖闘士に任せざるを得ないでしょうけれども。いずれにせよ,〈聖闘士星矢〉好きとしては期待の作品であります。更なる戦いの帰結に注目しています。
posted by 森山樹 at 23:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 漫画感想