2016年01月13日

吉田秋生『海街diary(7)あの日の青空』

〈2016年漫画感想2冊目〉
吉田秋生『海街diary(7)あの日の青空』


 鎌倉を舞台に四姉妹それぞれの物語が織られる『海街diary』の第7巻です。幸,佳乃,千佳,すずと四者四様の恋模様が実に微笑ましい。不穏な気配が漂う予感もありますが,気の所為であると思いたいところ。苦しんだ人間には相応の幸せが訪れると信じたいものです。また,すずがサッカー特待生として静岡の高校への進学を決意したことで物語も大きな分岐点に差し掛かっているように感じます。新たな恋を始めた幸と佳乃,ネパールに旅立った店長の身を案じる千佳,朋章に憧れながらも風太の恋を育んでゆくすずとそれぞれの物語が愛おしい。特に幸と佳乃のふたりは大好きなので彼女たちの行く末には注目しています。一応はそれぞれに交際を始めたということになるのでしょうけれども。どちらも本質的には真面目で不器用な点があまりにも魅力的であります。一方で,これまでは傍観者といった趣の強かった千佳が今後は中心に位置して来そうな感じ。彼女の不安が的中しないことを祈るばかりであります。すずが気付いた千佳の異変も気になるところです。

 今巻には4話が収録されていますが,一番好きなのはやはり表題ともなっている「あの日の青空」でありましょう。佳乃と坂下課長の関係が一気に進展するのが嬉しい。漸くその過去を吐露した坂下課長の想いに苦しさを感じます。そんな坂下課長に寄り添う佳乃が美しかった。また,山猫亭のおっちゃんの激白も辛かった。誰もがみな重い過去を背負っています。でも,だからこそ,みなが幸せを掴んで欲しい。そう思って止みません。だからこそ,山猫亭のおっちゃんは坂下課長を不器用なやり方で背中を押したのでありましょう。また,山猫亭が四姉妹の交錯する場所となりつつあるのも興味深いです。久しぶりに朋章の動向が明らかになった「同じ月を見ている」も印象深い。朋章と風太,それぞれのすずに対する言葉が素敵でありました。朋章もまたこのような形でいいから登場して欲しいもの。鎌倉に戻ってくるようなことがあれば,佳乃とすずにとっては心穏やかではいられなくなるかもしれませんけれども。「パント女子と海日和」はコロッケパンの美味しそうな物語。湘南海岸で一歩足を進める幸とヤスの姿が心に残ります。「遠い雷鳴」での口づけの場面への関係の進展が大変楽しい。幸は苦しい不倫を経験してからの新たな恋愛だけに一番気になっています。意外に感情豊かな表情を見せるのが楽しいです。ヤスの保護者に見えるのは仕方がありませんけれども。

 登場人物の誰もが愛おしく感じる巻でありました。特に山猫亭のおっちゃんの悔恨からの坂下課長への檄とも取れる背中押しがたまらなく素敵。その坂下課長に寄り添う佳乃,ヤスの告白を受け入れた幸と物語の大きな転換が今後如何なる風に作用するのか楽しみでなりません。問題はやはりネパールへ旅立った店長を想う千佳と静岡の高校への進学を決意したすずのふたりかなあ。特に千佳は様々な意味で心配でなりません。この不穏な予感が的中しないことを祈るばかりです。漸く掴んだ楽しい鎌倉での日々から離れ,サッカーを選んだすずも気になるところ。四姉妹を始めとする登場人物の全てが相応の幸せを得ることを願います。

(小学館 2015年)

タグ:吉田秋生
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2016年01月07日

ゆでたまご『キン肉マン(53)』

〈2016年漫画感想1冊目〉
ゆでたまご『キン肉マン(53)』


 キン肉族誕生の秘密が明かされる『キン肉マン』第53巻です。如何にも後付の設定ではあるのでしょうが,それを物ともしない無為な説得力が素晴らしい。悪魔六騎士篇で描かれた黄金のマスクと銀のマスクを此処まで帳尻を合わせてくれる力技には脱帽します。そして,それが面白いのですから言うことはありません。完璧無量大数軍最後の生き残りであるネメシスの正体がキン肉マンの祖父であるキン肉タツノリの弟という設定も明らかにされました。キン肉族の先祖が完璧超人始祖のひとりであるシルバーマンであり,そのシルバーマンは悪魔将軍ことゴールドマンの弟ということはキン肉マンと悪魔将軍にも僅かながら血縁関係があるということ。正義超人であるキン肉マン,悪魔超人を統べる悪魔将軍,そして完璧超人として生まれ変わったネメシスと完璧超人始祖を巡る戦いがキン肉族を中心とした戦いに移行していったのが面白いです。超人の歴史は即ちキン肉族の歴史ということ。この戦いが如何に帰結するのか楽しみでなりません。

 今巻で中心に描かれるのはネメシスとラーメンマンの死闘。ロビンマスクに続いてラーメンマンをも破るネメシスの強さは素晴らしいのですが,ラーメンマンの戦いぶりもやはり格好いい。ロビンマスクとともにネメシスに大きな影響を与えたように感じます。何よりも完璧超人を一度は目指したラーメンマンが超人オリンピックでキン肉マンに敗れたことで正義超人としての志に目覚めたというのが素敵であります。キン肉族に絶望することで完璧超人となったネメシスとキン肉マンに希望を見出して正義超人の要となったラーメンマンの対比も面白い。窮地に立たされたラーメンマンがモンゴルマンとしての姿を一瞬見せる場面は燃えるものがありました。それでもなお倒せないネメシスの強さもたまりません。そのネメシスに立場は違えど自分たちと同じものを見たキン肉マンとの戦いはいずれ行われる筈。その時が待ち遠しい。意味深なことを告げる委員長が何を知っているのかも興味深いところ。単にキン肉マンの大叔父というだけには留まらない謎をネメシスが秘めているようにも感じ取れます。また,敗れはしたもののラーメンマンがキン肉マンのものとは異なるというネメシスのマッスル・スパークにも謎が隠されています。このあたりはまだまだ一筋縄では行きそうにありません。続いて描かれるテリーマンとジャスティスマンの戦いも楽しみですが,現段階ではテリーマンには一分の勝機も見いだせないのも事実。此処から如何に反撃するか期待したいと思います。

 “許されざる世界樹”での戦いも半分が終わりました。残るはテリーマン対ジャスティスマンとブロッケンJr.対サイコマン。いずれも完璧超人始祖のほうが実力的には圧倒しているように感じます。戦力としては正義超人側がキン肉マンとウォーズマン,悪魔超人側が悪魔将軍にサンシャインとバッファローマン,完璧超人が超人閻魔ことザ・マンが健在といった状況になっています。此処から新たな戦力の投入ということも有り得ますけれども。特にキン肉族が中心に位置したことでキン肉アタルが関わってくることも予想されます。また,シルバーマンの参戦も十分に有り得そう。此処から如何なる驚天の真実が描かれるのか大いに期待したいと思います。

(集英社 2015年)

タグ:ゆでたまご
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2015年12月10日

手代木史織『聖闘士星矢THE LOST CANVAS冥王神話外伝(14)』

〈2015年漫画感想36冊目〉
手代木史織『聖闘士星矢THE LOST CANVAS冥王神話外伝(14)』


 前聖戦の黄金聖闘士たちの活躍を描く『聖闘士星矢THE LOST CANVAS冥王神話外伝』の第14巻。前巻に引き続き牡羊座シオンを主人公とした物語が綴られます。後の教皇でありながら本篇ではいまいち影が薄かったシオンが活躍するのは嬉しい。尚且つ他の黄金聖闘士よりも分量が約五割増しという破格の扱いがたまりません。対峙する相手は本篇で強烈な印象を残した冥闘士のひとり天魁星メフィストフェレスの杳馬こと時の神カイロス。前半戦での牡羊座の黄金聖衣を獲得するまでの戦いも後半の聖戦後に再び襲来したカイロスとの最後の激闘も楽しかった。聖衣の声を聴くというシオンの能力が存分に生かされての戦いは燃えるものがあります。また,蟹座マニゴルドや牡牛座テネオなどの活躍が描かれるのもやはり嬉しい。特にテネオは師である牡牛座アルデバラン篇に続いての出演と優遇されている感があります。あのカイロスを一度は圧倒するだけの実力を身に着けていたのが印象的。テネオの物語ももっと読みたいものであります。

 天馬星座のテンマと戦女神アテナの化身サーシャの帰還を狙って,最後の戦いを挑むカイロスの悪辣ぶりが素敵。相変わらず,時の神としての能力を存分に発揮した超越的な戦い方を見せてくれます。それに対する牡牛座テネオがシオンのスターダストレヴォリューションを参考に編み出した必殺技プレアデスノヴァから師アルデバランから引き継いだタイタンズノヴァでカイロスを追い詰める姿がたまらなく格好いい。とは言え,悪辣なカイロスに対するにはテネオは真摯過ぎたように思います。テネオの後を受けてカイロスに向かうシオンが双子座アスプロスと同様の戦術を持って対するのも熱いです。このあたりは過去と未来を繋ぐ存在としてのシオンの位置付けを痛感させます。残念だったのはカイロスの物語は本篇で終わった方が綺麗に思えたこと。パルティータの膝で眠るカイロスの姿が印象的だっただけにこの復活が非常に蛇足に感じてしまいました。尤も,この妄執こそがカイロスに相応しいとも言えるのですけれども。また,この場に至ってもパルティータのことを口にするカイロスの姿も印象に残ります。悪辣な神と言えど,パルティータはやはり特別な存在であったのでありましょう。決して,テンマを引き込む為の方便であったとは思えません。そして,漸く収録されたユズリハの外伝「血墨の紋」も嬉しかった。同じくジャミールの一族の物語として今巻に収録されるのが相応しいように思います。魔星に堕ちた弟トクサの亡骸を抱えて号泣するユズリハの姿に切なさを感じました。ユズリハや耶人の物語も読む機会も望みたいものです。

 これで黄金聖闘士13人の物語は完結しました。これが最終巻と思いきや,次巻からは前聖戦の更に前の聖戦,即ちハクレイやセージの戦った聖戦が描かれるというのは嬉しい。牡羊座アヴニールや水瓶座クレストも同時代を生きている筈なので登場することを期待します。聖戦ということで敵が冥王ハーデス及び冥闘士というのは確定なのですが,如何なる物語となるのか全く予想が出来ないのが楽しい。セージもハクレイも大好きな人物なのでその活躍を大いに期待したいと思います。過去から未来へと続く女神アテナと聖闘士の歴史に新たな足跡が加わることが嬉しいです。1巻とは言わずに,複数の巻を跨ぐ,それなりに長い物語となることを期待します。
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2015年12月04日

こざき亜衣『あさひなぐ(17)』

〈2015年漫画感想35冊目〉
こざき亜衣『あさひなぐ(17)』


 青春薙刀部漫画の第17巻。前巻から引き続く二ツ坂高校薙刀部内での部内戦が全て完了し,インターハイ予選が開始されます。野上えりから紺野さくらに部長の座は引き継がれ,また団体戦の選手として愛知薙が加わることになりました。新体制となっての二ツ坂高校薙刀部の活躍が楽しみでなりません。但し,薙を巡る騒動はほぼ全く未解決のまま。これは今後に尾を引くことになるのでしょう。母の教え子である藤が丘高校の新田桂香への異常な対抗心が吉と出るのか凶と出るのかは微妙なところです。勿論,東京予選では一堂寧々ら國陵高校の存在感も大きい。旭や将子の成長,薙の加入と二ツ坂高校も戦力を高めていますが,寒河江さんの戦術の劇的な変化もあり,一堂寧々に的林つぐみを擁する國陵高校も更なる強さを身に着けています。二ツ坂高校,國陵高校,藤が丘高校が団体戦の覇権を争うことになりそうです。一方の個人戦も楽しみ。旭と寧々が割合に近い場所にいるので早期の再戦も期待出来るかもしれません。逆に戦う前にどちらか,というか旭が破れる可能性も高いとは思いますけれども。いずれにせよ,宮路真春たちとともに挑む最後の夏の大会ということで二ツ坂高校の躍進を楽しみにしたいと思います。内紛はあったけれど,それを力に変えることは出来ると思いますから。

 冒頭の旭と将子の激戦が非常に熱かった。疲労の極致にありながらも,結果的には旭が勝利を収めましたが,将子との禍根を残さない爽やかな決着が印象的でありました。このふたりはもう大丈夫。しかし,旭が薙と並んで,真春に次ぐ順位になるとは初期には到底思えませんでした。此処のところの著しい成長が目覚ましいです。そして,薙の2位も素晴らしい。性格に問題は抱えていますが,その実力の高さは証明されました。二ツ坂高校では異質な存在として孤立しつつある彼女が如何に溶け込んでいくかが今後の焦点となりそうです。一方で國陵高校ではつぐみの苦労性ぶりに磨きがかかっている気がします。孤高を厭わない寧々とそれを容認する寒河江さんの狭間で苦しむ彼女が大層魅力的。そして,寧々の一番の理解者が彼女を見捨てた筈の寒河江さんというのが皮肉ではあります。互いに協力することで相乗的に強くなる二ツ坂高校と対立することで生じる相克が原因で強くなる國陵高校の対比が面白い。いずれにせよ,東京予選の決勝はこのふたつの高校で争われることになるのでしょう。その時が楽しみであります。勿論,その前には新田桂香を擁し,薙の母が率いる藤が丘高校との戦いが控えているわけでありますけれども。この戦いで薙の問題に一定の決着がつくことを望みます。

 相変わらず,心震え展開の連続がたまりません。一見いい加減ながらも,きちんと大人として子供を導くやす子先生が大変魅力的。部内戦が終わった後の感慨が心に響きました。いい人だ。そして,インターハイ予選では久しぶりに寿慶が登場。もうひとりの大人げない大人として如何なる役割を果たすのか楽しみです。彼女の不吉な予言というか期待も興味深い。旭と夏之の恋の行方も気になりますが,やはり個人的には薙刀だけで十分に思えるのも事実。いずれにせよ,目標である真春とともに戦える最後の大会に旭が如何に臨むのか楽しみにしたいと思います。
タグ:こざき亜衣
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2015年11月29日

大久保圭『アルテ(4)』

〈2015年漫画感想34冊目〉
大久保圭『アルテ(4)』


 16世紀を舞台に画家を志す貴族出身の娘アルテの奮闘を描く美術漫画の第4巻です。これまではフィレンツェが物語の中心となっていましたが,今巻末では新たにアルテはヴェネツィアに旅立つことになります。師事してきたレオと別れての新たな物語が次巻からは描かれることになりますが,その大きな転機が描かれる巻でありました。16世紀初頭のヴェネツィアは神聖ローマやフランスを相手に領土拡大の紛争に巻き込まれることが多かった時期に感じますが,このあたりが物語に影響を及ぼすのかは微妙なところ。但し,フィレンツェに大きな影響を与えた15世紀末の修道士サヴォナローラも全く扱われていないので,基本的にはあくまでもアルテを中心とした美術漫画に終始するのかもしれません。それはそれで問題はないのですけれど,歴史漫画としてはやや不満に思えるのが残念。その時代,その場所を舞台にするだけの意味が欲しいのですよね。新たに登場したフィレンツェの名士ユーリ・ファリエルも恐らくは実在した人物ではない筈。せめて,歴史上に名を残す人物との邂逅でもあれば面白いのですけれども。尤も,政争や戦争を扱うと物語が違う方向に進むのも事実。とは言え,この時代の美術はそういったものからは逃れられなかったこともまた事実であります。

 ユーリ・ファリエルからのヴェネツィアで家庭教師をして欲しいという要請に葛藤するアルテが中心となる巻です。そこに絡んでくるのがレオの師匠の娘ルザンナ。寡婦となり持参金返還を求めてフィレンツェに戻ってきたルザンナの存在が事態を解決する契機となったのはやや都合が良すぎる気がしますが,そのあたりは割り切りが必要でありましょう。実直で堅物なレオとは裏腹に軽薄でその実は裏に含んだものを感じるユーリとの対比が面白い。とは言え,そのユーリも恐らくは悪人ではないように思います。アルテが家庭教師を務める事になるユーリの姪カタリーナはまだ殆ど登場していないので,その個性は図りかねますが,一筋縄では行かぬ感じがします。レオは勿論のこと,ヴェロニカやアンジェロ,ダーチャらが暫く登場しないのは寂しいですが,ヴェネツィアでの新たな出逢いを楽しみにしたいと思います。ユーリもレオとはまた違った形ですが,アルテの将来に大きな影響を与える人物となることでしょう。第20話「海路」はフィレンツェを離れてヴェネツィアに至るまでの航海を描いたお話。荒くれ者だが気のいい海の民が素敵。そんな中でも物怖じせずに絵を描くことできちんと自分の居場所を確立するアルテが眩しい。この誰からも好かれる素直で真っ直ぐな性格こそが彼女の魅力でありましょう。ユーリからの要請を冷静に判断する聡明さもたまらないですけれどね。

 アルテにとっても,物語としても,大きな転機を迎えた巻でありました。花の都フィレンツェから海の都ヴェネツィアを舞台として如何なる物語が織られるのか楽しみでなりません。新たな登場人物も多数登場することでありましょう。先ずはアルテが教えることになるカタリーナが楽しみ。外見は如何にも貴族の令嬢といった雰囲気ではありますが,やや胡乱な気配を感じるのは気の所為かなあ。巻末の特別篇「アルテの一日」の微笑ましさは大変素敵でありました。これまで庇護してくれたレオの元を離れてのアルテの成長を心待ちにしたいと思います。フィレンツェに戻ったときにまた新たな物語が始まるのでしょうけれどね。
タグ:大久保圭
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