2016年02月08日

水谷フーカ『この靴しりませんか?』

〈2016年漫画感想7冊目〉
水谷フーカ『この靴しりませんか?』


 水谷フーカの微百合作品短篇集。女の子と女の子の出逢いが描かれる5篇と描き下ろしの掌編が掲載されています。いずれも童話やおとぎ話を材に取った作品というのが非常に好み。作者独特の柔らかさに溢れる物語が大変魅力的です。下手に濃厚さがなく淡い印象となっているのも個人的には好み。これくらいの距離感が素敵に思います。幾らでも泥沼に出来そうな題材もあるけれど,いずれも爽やかさに満ちているのは作風といってよいのでしょう。恋に落ちた時に頭を巡るぐるぐるした想いを描かせると水谷フーカに叶う作家はそうはいないように感じます。というか,あまり百合らしさを感じなかったというのは事実。普通に女の子同士の友情,或いは友情とは少し違う慕情を描いた作品として楽しみました。何をもって百合とみなすかというのは難しいところではありますが,結果的には直感というところなのでありましょう。その意味では百合であったとしても,あくまでも微百合に留まっているように感じました。勿論,それが物語の面白さを損ねるわけでは全くありません。寧ろ,そういう頸木を付ける方が不幸に感じてしまいます。

 収録されている5篇+αの中では表題作が一番好み。ふたりの擦れ違いのもどかしさがたまりません。靴子さんに出逢おうとする千晶が実に可愛らしかったです。それを見守る歯医者さんのお姉さんもいい味を出していました。「オオカミの憂鬱」は赤ずきんを材に取った作品。赤ずきんに翻弄されるエレベーターガールの隆子さんの逡巡が楽しいです。狩っていたつもりが狩られていたというのは定番ですが,やはり好み。「雪のお姫さま」は一方通行の想いが切ない。人見知りだけれど強気で小柄な真奈は全作品を通じても一番好きな女の子かもしれません。真奈の想いがいつか伝わればいいのですけれども。相手が悪い気がしないでもありません。「わたしのアヒルの子」は地味な娘が化粧をすることで一気に華やかになるというのはやはり定番でありましょう。幼馴染の美加と千穂が親友から一歩前に進んでいく感じがたまらなく好み。「はみだし音楽隊」は男の娘を含めた4人の物語。ちょっと登場人物が多いように感じたけれど,元がブレーメンの音楽隊なので仕方がないところか。「その後の音楽隊」で多少は補完されているのが嬉しいです。ロバートが存外にいい男でした。報われていない気もするけれども。「金の靴 銀の靴」は「この靴しりませんか?」を靴子さんの側から見た掌篇。「curtain call」は全員が登場する楽しい作品。「この靴しりませんか?」の歯医者のお姉さんの物語にもなっています。こういう賑やかな雰囲気のお話は大好きです。

 女の子の同士の友情と慕情を描いた作品として素直に楽しむことが出来ました。生々しさがないので或る種のファンタジィとして十分に満足することが出来ます。個人的にはこれくらいの塩梅が一番心地良く感じます。一番いいところで寸止めしているといった雰囲気でありましょうか。その後のふたりが気になるお話ばかりではありますが,それが「curtain call」で一定の回答を提示してくれているのが嬉しいところ。爽やかで小気味のいい短篇集として十分過ぎる程に楽しませていただきました。良かったです。

(白泉社 2016年)

タグ:水谷フーカ
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2016年02月07日

空知英秋『銀魂(62)』

〈2016年漫画感想6冊目〉
空知英秋『銀魂(62)』


 舞台を宇宙へと移し,天照院奈落を統べる虚との戦いが激化する『銀魂』の第62巻です。表紙が陸奥なのは巻数に掛けたものでありましょうか。時間の経過がいまいち分かりかねますが,真選組が江戸を去ってから或る程度の時間は経過している模様。行方不明となった鬼兵隊の高杉を救う為に万事屋の銀時だけではなく攘夷派の桂に快援隊の坂本と勢揃いする展開が熱い。また,鬼兵隊のまた子や万斉の活躍も楽しいです。そして,意外な形で再登場を果たした星海坊主の思惑が興味深い。高杉と手を組みながら,現在は行方不明の身である神威との決着をつける為に戻ってきました。虚と星海坊主という意外な対峙の形が熱かったです。今回は矛を交えることはありませんでしたが,どちらが強いのかは全く想像することが出来ません。銀時と高杉,銀時たちと吉田松陽こと虚,星海坊主と神威と,これまでに培われた伏線が一気に解消されようとしているところに物語が終局へと突き進んでいることを感じます。そんな真剣な展開にも関わらず,空かさず笑いを投げ込んでくるあたり,流石は『銀魂』といったあたりです。それが興を殺いでいないのは素晴らしい。

 今巻は信女によって虚の正体の一端が明かされました。同時に吉田松陽との関連性もまた明らかになりました。不死の化物である虚を相手に如何なる戦いが今後待ち受けているのか楽しみ。先ずは巻末に登場した宇宙海賊春雨十二師団の三凶星が相手ということになるのでしょうけれども。しかし,勢力がほぼ完全に二分されて,構図としては分かり易くなった気がします。また,銀時たちを追って宇宙へ上がった徳川喜々はあっさりと銀時たちに撃破されました。捕虜にしたことで厄介な火種を抱えた気がしないでもありませんけれども。喜々を殴り倒した万斉の姿に溜飲が下がりました。いずれにせよ,これで江戸のお妙たちが危険に曝されることはなくなったと見ていいのでしょうか。喜々に諭す坂本が格好良かったです。しかし,舞台が宇宙になったことで真選組やお妙,月詠,さっちゃん,全蔵らの出番が全くないのが残念でなりません。或る程度の宇宙篇が終わったら,最後の決戦の舞台は江戸だと思いますけれどね。先ずは高杉と神威の消息を掴むことが重要であります。現在は神楽や神威の故郷である惑星・烙陽が戦いの舞台となっています。阿伏兎も重要な立ち位置で登場しているのが嬉しい。星海坊主と阿伏兎の組み合わせは妙に気に入っています。どちらも神威に手を焼かされた者同士の共通点といったところでしょうか。その神威は全く姿を見せず。如何なる形での再登場となるのか楽しみです。

 物語も終盤ということで怒濤の展開が続きます。とは言え,分かり難かった戦いの構図が一新されたのは好印象。いささかすっきりし過ぎた気もしますけれども,これくらいの方が分かり易くてよいです。いずれにせよ,銀時,桂,坂本,高杉の4人が再び手を取り合うことになったことは確定したと見ていいのでしょう。それは坂本を除く3人にとっては師である松陽と対峙する道を選んだということでもあります。この戦いが如何なる帰結を迎えるのか楽しみでなりません。これまでに登場した仲間たち全てに一定の活躍の場が与えられる筈。自分の好みの登場人物がその中で如何に格好良さを発揮してくれるのか楽しみでなりません。

(集英社 2016年)
タグ:空知英秋
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2016年02月03日

椎名高志『絶対可憐チルドレン(44)』

〈2016年漫画感想5冊目〉
椎名高志『絶対可憐チルドレン(44)』


 第4のチルドレンこと雲居悠里の帰還が為された『絶対可憐チルドレン』の第44巻です。黒い幽霊との戦いを交えてはいるのだけれども,物語が明確に動いている雰囲気がないのがもどかしい。まあ,松風が完全に主役のひとりとして定着したのは嬉しいところです。皆本よりも兵部との絡みが目立つような気もしますけれども。ザ・チルドレンの3人も薫が中心で,残るふたりは脇役に感じられるようになったのは少し寂しい。高校生篇に入ってからは薫を巡る物語という色合いが濃くなってきたような気がします。となると,中心になるのは皆本,兵部,松風に悠理あたりに比重がかかるのは仕方がないところでありましょうか。登場人物が多い作品なので,脇役陣の活躍のほうが楽しみな部分は大きいのですけれども。マッスル大鎌あたりの再登場も待ち望んでいます。澪やカズラ,パティの出番が多いのは救いであります。彼女たちが中心となる物語も今後用意されていると嬉しい。ナオミも中学生篇あたりから目に見えて出番が減ったのは寂しいです。或る程度は仕方のない部分はあるのですけれども。

 収録されているのは「ステイ・ウィズ・ミー」の後半部分と,「新たな戦い」,それに「デート・オア・ダイ」の前半部分。ザ・ハウンドの成長ぶりは頼もしかった。小鹿主任が一番頼りなく思えるのは気の所為か。それでも,その超人的な体力が明かされたのは面白かったです。そして,その裏で進行していた賢木とバレット,ティムによる松風の身辺調査は素直に好み。賢木の悪いけれど頼りになるお兄さんとしての立ち位置が素敵です。それだけに不穏な描写が多いのは気がかり。「新たな戦い」は悠理の帰還戦。彼女との再会を素直に喜ぶちさとやカズラたちの姿に頬が綻びます。生徒会副会長の金城さんの出番があったのも嬉しい限り。ハンゾーやナイの再来日も期待したいところであります。悠理の薫大好きぶりが最早異常な域にまで達しているのは気の所為か。「デート・オア・ダイ」はその悠理の暴走ぶりが楽しい。ちさとによる東野,カズラによるカガリの馴致が酷かったです。そして,こういう時に妙に頼りになるパティが素晴らしい。過去を回想するパティの横顔が美しかったです。辛い過去は過去として,今を生きるパティやバレット,ティムらの姿は悠理にとっても救いとなる筈。その意味では想像以上に重要な存在となりつつあります。

 黒い幽霊を統べるギリアムの内通者の存在が明かされたのが不穏な巻でありました。勿論,それは無意識のうちということになるのでしょうけれども。一番有力なのは賢木ということになりますが,そうは安直にはいかない気がするのも事実。松風に対する疑惑が完全に払拭されたわけでもありません。少しずつではありますが,物語は動いてはいるのかなあ。高校生篇に入ってから歩みが遅くなっているように思えるのが気になるところです。次巻もとりあえずは悠理の暴走から入るのが確定しているわけですしね。まあ,パティの出番が多いのは歓迎すべきではあります。

(小学館 2016年)

タグ:椎名高志
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2016年01月31日

オニグンソウ『もののがたり(1)』

〈2016年漫画感想4冊目〉
オニグンソウ『もののがたり(3)』


 京都を舞台に人間と付喪神との関わりが描かれる『もののがたり』の第3巻です。ミラクルジャンプ誌からウルトラジャンプ誌への移籍を機に読むことにしました。物語としては人間と付喪神との絆,そして戦い,また人間同士の恋が描かれるということで盛りだくさん。特に独自の設定で描かれる付喪神の姿が興味深いです。特に主人公のひとりである長月ぼたんを護る6人の付喪神が婚礼調度というのが素敵。それぞれに個性的でありますが,中でも羽織と結が非常に良い。人間に非ざるものではありますけれども,その想いは人間と同じものでありましょう。また,ぼたんそのものに秘められた力は物語の主軸であるだけに今後も苦難に巻き込まれるのでありましょう。そのぼたんを如何に護るかが6人の付喪神“長月の婚礼調度”の使命であり,ぼたんを狙う付喪神を如何に倒すかがもうひとりの主人公である兵馬の目的となりましょう。ぼたんを狙う組織は現時点で既に付喪神集団“叢原火”,兵馬と同じく付喪神を祓う力を持つ塞眼京都守護“門守一派”,そして“長月の婚礼調度”と並ぶ京都三大付喪神“本庄の雅楽寮”が明かされています。如何なる戦いが展開されるのか,そしてぼたんと兵馬の行く末が楽しみであります。

 最新の3巻で描かれるのは門守一派を統べる門守大樹との戦いと叢原火の登場といったあたり。特に門守一派との戦いは見応えがありました。全般的に速度感が素晴らしい。かつて登場した薬研が姿を見せるのも嬉しいです。薬研の美人ぶりは羽織に匹敵するくらい。女性陣は誰もみな魅力的に思えます。それは門守大樹の娘である椿も同じこと。大樹との戦いでは傍観者に徹していましたが,彼女にも秘めたる想いがありそう。兵馬の双子の兄姉の仇である唐傘の付喪神を追っているということからも今後の物語で大きな役割を果たしそうです。兵馬と椿が追う唐傘の付喪神の正体も気になります。叢原火との関連性を疑うのは流石に早計かなあ。現時点で交戦中の刑具の付喪神も魅力的。一方で兵馬側は椿はともかく,残りは付喪神の結と煽,袿という5人組。特に煽と袿とは以前に戦った相手でもあり共闘が上手くいくかどうかに注目したいものです。軽薄な実力者という点で煽はかなり好みなのでこのまま兵馬の消極的な仲間としての位置に座って欲しいと思います。椿は大樹戦では全く見せなかったその実力を漸く明かしました。必ずしも所属する陣営が味方であるとは言い辛いものもありますが,かなり魅力的な人物なので敵対することがあって欲しくはありません。寧ろ,ぼたんの恋仇となりそうな気配も感じてしまいます。

 独特の設定に因る付喪神の戦いを描く作品ということ今後が楽しみです。互いを意識する兵馬とぼたんの初々しい様子も面白い。とは言え,やはり個人的には羽織と椿に尽きます。特に羽織の魅力は絶大なもの。長月の婚礼調度を事実上統べる形となっている彼女の力も注目したいもの。必ずしも戦闘要員というわけではないでしょうけれども,恐らくは怒らせると一番怖いように思います。何はともあれ,ぼたんに眠るマレビトの力を巡る戦いは始まったばかりです。この戦いの果てに如何なる帰結が待ち受けるのか大いに楽しみにしたいと思います。

(集英社 2015年)

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2016年01月17日

菅野マナミ『良い子さんと不良先生』

〈2016年漫画感想3冊目〉
菅野マナミ『良い子さんと不良先生』


 『ひまわりさん』の菅野マナミによる自薦短篇集。珠玉という言葉が相応しい素敵な作品になっています。『ひまわりさん』の登場人物の原型にも思える者もいて頬が綻ぶのを感じるのも嬉しい。作品全体に流れる優しい雰囲気に心捕らわれてなりません。また,猫や狐といった動物が登場する作品が多いのも特徴と言えるでしょう。割と古めの作品も含まれていますが,絵柄が安定しているのが素晴らしい。作者による自作解説も楽しめます。とにかく女の子が可愛らしくて魅力的なのが秀逸。このあたりは『ひまわりさん』に踏襲されています。特にしっかり者とうっかり者の組み合わせを描かせたら絶品な気がします。個人的には眼鏡娘率の高さも嬉しかった。他愛のない日常を描いた作品も不思議な非日常を描いた作品も変わらず愛おしく思えます。微百合な描写も含めて女の子同士の関係を描いたら現在最も好きな作家のひとりであることは間違いありません。実に至福の時を堪能いたしました。

 収録されている短篇は全部で10篇。登場人物が共通するものはありません。長いもので20頁強,一番短いものは2頁と短篇よりも掌篇というほうが相応しい作品も含まれています。一番好きなのはやはり表題作の「良い子さんと不良先生」に尽きます。不良先生こと美術の山口先生がとにかく魅力的に過ぎます。白衣に眼鏡で咥え煙草が似合っているのも大変に好み。良い子さんこと良子さんを愛でる姿が愛おしい。このふたりの更なる物語も読んでみたいものであります。「彼女のひみつ」も素敵。物語との結末は割合に想像し易いものですが,それが陳腐になっていないのが素晴らしい。此方もその後が気になります。「良い子さんと不良先生」も「彼女のひみつ」の出逢いが描かれるので,猶更その後が知りたくなってしまうのは仕方がありません。印象的だったのは「まぼろし」。これも出逢いだけが描かれる作品となります。連作にして欲しいというのは,短篇としては成功しているという証左なのでありましょう。「まぼろし」はとにかく天然お姉さんの魅力が素晴らし過ぎます。菅野マナミの描く年の差があるふたりは同性異性に関わらず,本当に楽しい。「夏」と「狐の電車」は小学生が主人公。「夏」の目を前髪で隠した女の子がお気に入り。着物姿がたまらなく可愛いです。「視線」は2頁の掌篇。憧れの先生に恋する女の子が実に素敵。この器用な不器用さは『ひまわりさん』に通じるものを感じます。

 大変素敵な物語ばかりでありました。普段は短篇集というものには興味を抱かないのですが,この作品で認識を改めました。物語が短い分,小気味よくまとまった作品に仕上がっていて,長篇よりも自分好みかもしれません。続きが読みたいというもどかしい気分にもさせられるのもまた幸せでありましょう。とにかくどの物語も実に魅力に満ちており印象的でありました。作者による解説と合わせて読むことで更に楽しさが増すのも二重丸。甘酸っぱさに満ちた青春に憧憬を覚える珠玉の短篇集でありました。
タグ:菅野マナミ
posted by 森山樹 at 21:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 漫画感想