2015年11月29日

大久保圭『アルテ(4)』

〈2015年漫画感想34冊目〉
大久保圭『アルテ(4)』


 16世紀を舞台に画家を志す貴族出身の娘アルテの奮闘を描く美術漫画の第4巻です。これまではフィレンツェが物語の中心となっていましたが,今巻末では新たにアルテはヴェネツィアに旅立つことになります。師事してきたレオと別れての新たな物語が次巻からは描かれることになりますが,その大きな転機が描かれる巻でありました。16世紀初頭のヴェネツィアは神聖ローマやフランスを相手に領土拡大の紛争に巻き込まれることが多かった時期に感じますが,このあたりが物語に影響を及ぼすのかは微妙なところ。但し,フィレンツェに大きな影響を与えた15世紀末の修道士サヴォナローラも全く扱われていないので,基本的にはあくまでもアルテを中心とした美術漫画に終始するのかもしれません。それはそれで問題はないのですけれど,歴史漫画としてはやや不満に思えるのが残念。その時代,その場所を舞台にするだけの意味が欲しいのですよね。新たに登場したフィレンツェの名士ユーリ・ファリエルも恐らくは実在した人物ではない筈。せめて,歴史上に名を残す人物との邂逅でもあれば面白いのですけれども。尤も,政争や戦争を扱うと物語が違う方向に進むのも事実。とは言え,この時代の美術はそういったものからは逃れられなかったこともまた事実であります。

 ユーリ・ファリエルからのヴェネツィアで家庭教師をして欲しいという要請に葛藤するアルテが中心となる巻です。そこに絡んでくるのがレオの師匠の娘ルザンナ。寡婦となり持参金返還を求めてフィレンツェに戻ってきたルザンナの存在が事態を解決する契機となったのはやや都合が良すぎる気がしますが,そのあたりは割り切りが必要でありましょう。実直で堅物なレオとは裏腹に軽薄でその実は裏に含んだものを感じるユーリとの対比が面白い。とは言え,そのユーリも恐らくは悪人ではないように思います。アルテが家庭教師を務める事になるユーリの姪カタリーナはまだ殆ど登場していないので,その個性は図りかねますが,一筋縄では行かぬ感じがします。レオは勿論のこと,ヴェロニカやアンジェロ,ダーチャらが暫く登場しないのは寂しいですが,ヴェネツィアでの新たな出逢いを楽しみにしたいと思います。ユーリもレオとはまた違った形ですが,アルテの将来に大きな影響を与える人物となることでしょう。第20話「海路」はフィレンツェを離れてヴェネツィアに至るまでの航海を描いたお話。荒くれ者だが気のいい海の民が素敵。そんな中でも物怖じせずに絵を描くことできちんと自分の居場所を確立するアルテが眩しい。この誰からも好かれる素直で真っ直ぐな性格こそが彼女の魅力でありましょう。ユーリからの要請を冷静に判断する聡明さもたまらないですけれどね。

 アルテにとっても,物語としても,大きな転機を迎えた巻でありました。花の都フィレンツェから海の都ヴェネツィアを舞台として如何なる物語が織られるのか楽しみでなりません。新たな登場人物も多数登場することでありましょう。先ずはアルテが教えることになるカタリーナが楽しみ。外見は如何にも貴族の令嬢といった雰囲気ではありますが,やや胡乱な気配を感じるのは気の所為かなあ。巻末の特別篇「アルテの一日」の微笑ましさは大変素敵でありました。これまで庇護してくれたレオの元を離れてのアルテの成長を心待ちにしたいと思います。フィレンツェに戻ったときにまた新たな物語が始まるのでしょうけれどね。
タグ:大久保圭
posted by 森山樹 at 07:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 漫画感想
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/168845581
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック