2015年10月12日

久正人『ノブナガン(6)』

〈2015年漫画感想27冊目〉
久正人『ノブナガン(6)』


 進化侵略体と戦うE遺伝子保持者の活躍を描いた『ノブナガン』の最終巻。絶望から希望への転換が素晴らしい。浅尾さんが此処まで重要な存在になるとは思ってもいませんでした。これは初登場時からの構想だったのかなあ。本当に素晴らしい。しおと浅尾さんの本当の出逢いから再会までの一連の流れは完璧だと感じます。また,切り裂きジャックことアダムとしおとの関係も見どころのひとつでありましょう。しおとアダム,そして浅尾さんが記念写真を撮る一連の場面が最高に素敵。この間に一切の台詞がないのが非常に効果的だと思います。それ故に最後の浅尾さんの写真があまりにも印象的であるのですけれども。浅尾さんに化粧を施すニュートンも素敵でありました。そして,浅尾さん救出の立役者のひとりであるガリレオ・ガリレイことバレンチナ・カッサーラの存在感も素晴らしかった。最終話ではまさかの場面が見られたのが嬉しいです。しかも,お相手が意外過ぎるのも良かった。他にもヴィドックの立ち位置も良かったです。ジョン・ハンターはちょっと哀れだけれど,まあ仕方ないよね。

 明かされた進化侵略体の予想を超えた正体が素晴らしい。そして,その身を徹して立ち向かったしおを始めとするE遺伝子保持者たちも。ノブナガンに加えて,もうひとつのE遺伝子をその身に宿すというしおの選択肢もたまらないものがありました。この最終盤の展開は完全に予想出来ずに意外性が大変楽しかった。しおの考えた作戦が途方もないながらも説得力があるのが素敵です。それはもうひとつのE遺伝子の特性と完全に適合しているからでもありましょう。このあたりの展開はまさに神懸っておりました。個人的にはそのE遺伝子を完成させた後の土偶と壱与の会話が非常に好み。最終話で海辺に佇むふたりの姿も印象的でありました。約2000年も戦い続けてきたふたりの星を超えた絆がたまりません。その壱与から指令の座を受け継いだヴィドックもいい味を出していました。彼の自嘲は,しかし,人類を救えたが故のもの。しおに対して本気で激怒する彼の激情も心地良かったです。後はやっぱり一般人代表としてのデリン・タナカかなあ。浅尾さんを救出した立役者のひとりであり,男としての格好良さも見せつけてくれました。あれは惚れちゃうよね。そして,最終巻に至って活躍を見せたウィリアム・テルやメフメトII世,ポルシェ,ノストラダムスも嬉しい。特にウィリアム・テルとノストラダムスの戦友としての会話が良かったです。ウィリアム・テルはロバート・キャパとの会話も好きだったけれど。極僅かな登場に留まった脇役全てが個性豊かだったのが素晴らしいです。

 終わってしまったなあというのが正直なところ。もう少し読みたかった気もしますが,此処まで綺麗に纏めてくれると満足する他ありません。しおと浅尾さんの絆の美しさが本当に素晴らしかった。外連味に溢れる描写と奇想の設定が作者の特徴ではありますが,その本質は稀代の語り手ともいうべき物語の展開にあると思うのですよね。その作者の能力が如何なく発揮された最終巻でありました。最終話がほぼ後日談というのも個人的には大変好み。本当に心から満足出来るあまりにも美しい物語でありました。敢えて言うならば,ロバート・キャパとウィリアム・テルの会話に登場したコロンブスの逸話が読みたかったけれどね。
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posted by 森山樹 at 22:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 漫画感想