2015年09月19日

冬目景『イエスタディをうたって(11)』

〈2015年漫画感想21冊目〉
冬目景『イエスタディをうたって(11)』


 11巻に渡って繰り広げられた三角関係に遂に終止符が打たれる時が来た『イエスタディをうたって』の最終巻です。此処に至るまでにいろいろなことがあったなあと万感胸に迫るものがありました。遠回りをし過ぎた感もありますが,だからこそ落ち着くところに落ち着いたとも言えるのでしょう。懐かしい人物の予期せぬ登場と意外な働きが嬉しい。木ノ下さんの後押しは結果として想定とは違う方向へと行ってしまったわけですが,硬直した現状を動かす要因となったのは事実。そして,湊は本当にまさかの再登場でありました。性格も若干変わったように思いますが,それだけの人生経験を積んだということなのでありましょう。彼の存在がこの結末を呼ぶことになったことを考えると大殊勲と言えます。雨宮側ではみもりが大きかった。一方で終盤は浪が殆ど物語に絡まなかったような気がします。莉緒との関係を終わらせた彼の物語はこれから再び始まるのかもしれません。何はともあれ,晴の想いが実ったことに祝福を捧げたくなる結末でありました。これが見たかったので満足です。

 三重県のとある駅で陸生と晴が再会から接吻をする場面がたまらなく素晴らしい。このふたりらしいと心の底から思います。最後の晴の涙が好き。一方で陸生と榀子との別れの場面も胸に来るものがあります。互いを大事に想いながらも,遂に結実することのなかったふたり。痛みも苦みもありましたが,友達としての関係は続いて欲しいものです。自分が愛する人と自分を愛する人,そのどちらを選ぶかというのは或る意味で究極の選択であると言えるでしょう。陸生や晴,榀子の出した答えが正解かは誰も分かりません。それでも,なお,この答えが最良であったと信じています。最終回では陸生も晴も姿を見せませんでしたが,皆の口からふたりが変わらずに仲が良い様子が窺えたことに満足。出来得るならば,結ばれた後のふたりの姿も拝見したかったところではありますが,余韻を残した結末と言えることも出来ます。杏子さんや楼子,莉緒,それに最終巻には登場しませんでしたが柚原チカら,物語を彩った女性陣の魅力は本当に素晴らしかった。特に煙草を吸う仕草に非常に心惹かれました。或る種の完成された美しさであったかと思います。紆余曲折はありましたが,一途に陸生を想い続けた晴の物語でありました。その切なさと美しさと楽しさが本作の魅力であったと思います。

 終わってしまったなあというのが一番の感想でありました。もっと,陸生と晴の物語を楽しみたかった。恋人として結ばれてからのふたりは,しかし,これまでとは然して変わらない筈。或いは変わらないでいて欲しい。もうふたりに逢えないことよりもふたりの物語に出逢えたことを心から感謝します。ずっと読み続けてきて本当に良かった。陸生を背中から抱きしめる晴の姿が愛おしくてたまりません。もうひとりの主人公である榀子にとっても決して悪くはない終わり方だったのではないでしょうか。彼女を愛する浪と結ばれることが示唆されているように感じました。榀子にも必ず幸せになって欲しいものです。『イエスタディをうたって』を彩った登場人物はみな優しさに満ちた魅力的な人ばかり。或る種のファンタジィとして憧憬を抱く物語でありました。変わり者たちの群像劇とも言えるけれどね。心の底から満足のいく物語を堪能することが出来ました。感謝します。
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posted by 森山樹 at 22:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 漫画感想