2015年08月06日

杉山小弥花『明治失業忍法帖(7)』

〈2015年漫画感想13冊目〉
杉山小弥花『明治失業忍法帖(7)』


 明治時代を舞台とした恋愛漫画の第7巻。元忍びの清十郎と大店の娘である菊乃のふたりの距離が徐々に近付きつつあるのが楽しい。というか,実際にはふたりとも既に自分の心には気付いているのにお互いに素直になれない感情が物語を複雑にしています。真っ直ぐな気性の菊乃と屈折した性格の清十郎はお似合いなのだけれども,何処か噛み合わないというのが面白い。或いは噛み合い過ぎているからこそ,進展しないのかもしれません。とは言っても,遂にというか漸くというか,清十郎が菊乃に結婚を申し込んだことで更に前進していきそうな気配は漂っています。尤も,気配だけで一向に進まないのもこのふたりの関係なのではありますけれども。いずれにせよ,このふたりの距離感は存外に好みであります。最早,結婚しているのとあまり変わらないように思えるのは気のせいかな。

 今巻では描き下ろしの序章を含めて全部で7話が収録されています。うち,2話でひとつの物語という構成のものがふたつあるので,実質的には5話ということになるのかな。これまでに登場した警視庁の槇に軍の楡大尉,それに反政府組織に身を投じる長州の桐生と物語を彩る魅力的な男たちが総登場というのが嬉しい。特に桐生は過去に清十郎とも因縁のある人物だけに再登場を心待ちにしていました。楡大尉の性格の悪さも結構好み。清十郎を含めたこの四者が勢揃いする物語というのも読んでみたい気がします。政府に属する槇と楡に対して立場を異にする桐生では戦う他に道はないのですけれども。人間としては割合に馬が合いそうな気がします。桐生も理想の中でも現実を見据える人物だけに明治という時代を生き抜いて欲しいです。そして,未だにその過去の全容が見えない清十郎の底知れなさに時に不気味なものを感じざるを得ません。普段の暢気な様相からは想像も出来ない,忍びとしての彼の過去の全てが明かされる日は来るのでしょうか。尤も。その全てを知った上で,それでもなお,菊乃は清十郎を受け止めるのでしょうけれども。

 巻を重ねるごとに物語が加速度的に面白さを増しています。内容が濃密なので結構疲労感も覚えるのですが,それもまた心地よい。明治時代という背景を単なる設定上のものとせずに社会の動向や風俗,文化なども巧みに物語に織り込んでいるのが好みです。何よりもやはり登場人物が実に魅力的。槇や楡大尉,桐生も然ることながら,清十郎と菊乃のふたりを愛してやみません。第三十三話「心の底まで映したい(上)」の扉絵のプリクラ風のふたりが大変に素敵。今回は出番が少なかったけれど,桃ちゃんと槇の行く末も気になります。旧敵同士ということで簡単に結ばれることはないでしょうけれども。いずれにせよ,今後の展開も実に楽しみであります。
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posted by 森山樹 at 22:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 漫画感想